あそ坊くんコラム 「旅の今と昔」

黒く光る力強い蒸気機関車が未だに脳裏にこびりついています。小学校に入学する前に父親に二本松駅に連れて行ってもらい、機関車を興味深く見ていた自分の姿がぼんやりと思い出されます。煙突からモクモクと噴出してくる煙と汽笛の音。そして、大きな車輪がピストンとの連結棒の動きに伴って廻る迫力に圧倒されていたようです。

子供心に東京タワーが見たいと夢に見て心ウキウキ、初めて東京に行った時はあこがれていたSLに乗って6~7時間くらいかかっていたのではないでしょうか。その後、「準急」という列車で4時間半、「特急」で3時間くらいだったように思います。客車も車内が板張りで、イスも背もたれがまっすぐに立っていて、勿論、リクライニングになるはずはありませんでした。窓を開け黒磯駅の人気駅弁の「釜飯」を買ってもらい、お茶を飲みながら美味しく食べた思い出が印象的です。列車内の雰囲気も何処となく和気藹々といった感じで、隣り合った方と世間話をし、窓からの風景を眺めていたことが、いかにも"旅"だったと感じていますが、今や、新幹線で80分ですので隣に座った方とのふれあい、会話もなく冷めたものを感じます。
「旅」っていったいなんだろうか?と考えてみますと、足を踏み入れたことのない土地に行って、出会った方(住民は勿論、電車の中で一緒になった旅の方、温泉で裸の付き合いをしてきた旅行者など)との出会い、ふれあいが最高の思い出になっているのではないでしょうか。「旅館のお風呂で丁度一緒になったおじいさん、昔の話しを聞かせてくれたよ。」「帰りにお昼を食べたお蕎麦屋さんのお姉さんがとっても綺麗で、話しにも乗ってくれた。」などと人とのふれあいがお土産話の中心になってきています。例えば、立派な旅館に泊まった時に、お部屋も綺麗、料理も美味しく、お風呂も最高だったとしても、担当したお姉さんの表情、態度が冷たく、事務的だったとしたら良い旅館と言えるでしょうか。たとえ古い、小さな宿でも、そこの主人、女将さんが誠心誠意サービスしてくれたら、もう一度行きたくなると思います。
5年前からJRさんの大きな応援を戴きながら岳温泉では「湯めぐり・茶めぐり・味めぐり」キャンペーンを実施して、観光客の方に好評を戴いております。これは、お客様を温泉街上げてお迎えをする気持ちをどう表現するかを形にしたものです。街をお客様がそぞろ歩きをした時に、お土産屋の奥さんも、食堂のおじさんも「こんにちは!」と挨拶をし、「どこからお出でになったのですか。」「天気良いですね。」などと声をかけたら、思い出多い、素敵な旅になりますよね。 旅に出て、日頃の疲れを取り、明日への活力を養い、心をリフレッシュすることが現代人にとって最も大事なことになっています。こんな時代だからこそ「旅」の持つ意味を真剣に考え、 私達観光サービス業を営む者が、旅の意義をしっかり捉え、心からの温かさを持ってふれあった時、時間と金を費やしただけの価値のある旅を旅行者にプレゼント出来るものと確信します。
旅館に宿泊しても、温泉街を散策することもなく、お風呂にはいり、酒を飲み、料理を食べて、寝るだけでは、旅の味を感じ取ることは出来ないですね。各旅館、商店、飲食店の軒先に、統一した布をかけた縁台を置き、気軽に誰でも座ってもらい、お茶をサービスして、旅の思い出を語り合っていただく。勿論、お客様とお店のご主人や奥様、またはお客様同士もあるでしょう。

訪れた人を温かく迎えるんだという表現方法として、先に述べたキャンペーンがあるわけです。縁台を置くというハードではなく、お迎えする心をいかに感じていただけるかがこれからの大きなポイントとなっています。今、観光客を心から温かく迎えてくれている雰囲気のある温泉地が人気になっています。ほんとの空の安達太良山を持つ岳温泉、環境だけではなくソフト面での充実を図り、「さすがだね。」と言われる温泉街にしていかなければと決意しております。
去年の暮れからJRさんの一番の商品にしようと企画されました「地・温泉」に当館も加えていただいております。「お客様にやすらぎをお土産にして頂こう。」と社員一同サービスに努めていますし、旅の思い出つくりの一つとして女将の陶芸、ミニガーデニング、銀細工体験もお蔭様で好評です。今後ともより良い旅の演出者として頑張ってまいりたいと思います。